新宿の雑踏の中で
会社は新宿にあり、毎朝、新宿大ガードをくぐって通勤しています。
大ガードの下って、昔から浮浪者のおじさん達のメッカですが、規制が厳しくなってから、以前ほど多くの人がいなくなりました。
そのトンネルの中も、二人とか一人とかが寝ているというような感じでした。
いつからか一人になって、そのおじさんが布団にくるまれて寝ている訳です。
コロナが流行り始めて、緊急事態宣言が出て、会社への出勤が減って、時々しか通らなくなても、そのおじさんはそこにいました。
緊急事態宣言が解けて、また前のように会社に行くことになったからも、そのおじさんは変わらずに、そこにいました。
そろそろ暑くなりだしたころも、布団にくるまれてそこにいました。
朝、毎日そこを通るのですが、おじさんは寝ていてビクともせずに、寝ています。
そのうち、布団をかけなくなって、寝ています。
毎日毎日、いろいろな人が通るところで、寝ていて「コロナ」にならないんだろうか?と心配していました。
本当に、動かないで寝ているので、もしかしたら、もう……このまま、なんて思って、そこを通るのが怖くて仕方がありませんでした。
ある日、いつものように通りかかった時に見ると、いつも寝ているところにそのおじさんの姿は、ありませんでした。
誰かが、通報したのか、やっぱりもうダメだったのかしら、と思っていたらところ、再びそこを通ったら、いたのです!そのおじさんが!!
おお、生きていたんだ!!すごいな、人間って強いんだな!と思っていました。
梅雨の終わりころには、いつも寝ていたおじさんは、壁にむかって○○をしていたり、立ったりして、以前の動かないころよりも元気そうでした。
長い梅雨が明けて、毎日、溶けるような暑さがやってきて、冷房がなければやっていけないような日々が続きました。
うちも今まで夜などは冷房を入れていなかったのですが、最近のこの異常な暑さで、一日冷房をかけっぱなししています。
朝から暑くて、大ガードを通る度に、こんなに暑い中、こんなところにいて大丈夫なのかしら?と心配していました。
といっても、何かできるわけではありません。ただ見ているだけです。
家の帰って、あのおじさんは大丈夫なのかしら?なんて話をすると、昼はどっか、冷房のあるところに行っているよ。なんていうのですが、そのおじさん、パンツ一枚での裸なのです。そのおじさんが、どこへ行けるというのでしょうか?
そんなある日、いつものようにそこを通ると、おじさんはいなくなっていました。
でも、前のようにまた戻ってくるかもしれない、と思っていましたが、それ以来、そのおじさんはそこに戻ってきません。
やはり、この暑さに負けてしまったのでしょうか?
会社の帰りにそこを通ると、荷物を置いて、そばに座っている人がいました。あの、おじさんかしら?と思ってみると、違うおじさんでした。
もう、あのおじさんは戻ってこないのでしょうか?
コロナも怖いけれど、熱中症も怖いです。